■
たった一時間、隣に並んで話しただけの忘れられない人がいる。
たった一通の手紙で、内側に触れて、全てを攫う様な尊い人がいる。
その事実は、私の日々を優しく包んでくれる。
だけど、同じ音楽を聴いてても、私の心と交われるわけもなくて、分かってもらえるわけも、尊重されるわけもなかった。音楽の嗜好が同じだけで尊い人かもしれないなんて、馬鹿げた発想だった。淡い期待は、ただの淡い期待のまま、粉々になっていつかの夜へ散っていった。
アルコールがまだ体内に残った帰り道に、真夜中の公園でお喋りをする、なんてロマンチックなんだろう。これが分からない人間と、いくら話しても無駄だったろう。時間を割く価値はない。
あの日の老人に抱いた感情は、私の確信は、何なのだろう。彼女に対する私の心は何処まで続いてるんだろう。
分かり合うということと、溶け合うということは、全くの別モノなのだと気付いた。私のことを誰もが知らない。あの子のことを私は知らない。その絶望の淵で、二人きりで心を絡めて、溶け合っていたい。