葉月


季節は夏。

あの子へ書いている手紙は、途中のままになっている。続きを書けないまま、気付けば夏のど真ん中へ放り出されてしまった。

最近は、あまり料理をする気になれない。一汁三菜を心掛けたいけれど、今は到底そんな気分になんてなれないわ、という具合。

楽しいことを見つけたいけれど、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。

私はとてもとても魅力がなくて、それはそれは価値の無い人間だこと。そんな思考に支配されていた。それでもなけなしの強がりで、首を横に振って、私が今まで好きになった人の本当の魅力に、私は1ヶ月や其処らで気付けたことなんてない。色んな話をして、色んな場面を一緒に過ごして、そうやって同じ時間を共有して初めて、本当の魅力に気付いていった。だから私が魅力のない人間なんかじゃなくって、こんな短期間では私の魅力は伝わらないし、私の魅力を見抜けるほどの器じゃなかった、ただそれだけだと言い聞かせた。だけど、魅力も価値も本当は無いんじゃないかって、自分に見つかってしまいそうで怖い。だから、気付かないフリを続ける。私を大切にできるのは、私だけだから。


私は、誰かを愛すことのできる状態がまだ整っていなかったんだと、今思う。それ自体がもう、縁が無かったの一言で済ませて仕舞えるんだよ。


美しい旅をしよう








私の心を、自分の中に存在させてくれるような人と、一緒にいたいよ。
心が、何度も悲鳴を上げて、もう疲れた。

私は美しいものだけを見ていたい。
美しい音楽を聴いて、美しい感情を抱く。
美しい心の人と手を繋いで、美しい夢を見る。
美しいものだけを感じていたい。
美しいことだけを知りたい。
美しい日々を過ごしたい。








きっと明日のデートはすっぽかされるし、私のことなんて安い女だと思われてるし、時間は無駄にされるし、感情なんかなくって、別れはすぐそこにあるし、これでいいんだよ。初めっから、縁なんてなかったし、好きでもなかった。明日は、晴れだから、そうだなぁ、家に篭っていよう。



ART-SCHOOL@image


ART-SCHOOLのライブを観に行った。

最前列のスピーカー前で、戸高さんのギタープレイを堪能した。お陰様で右耳が翌日の夕方までおかしくなっちゃってた。

彼の奏でるギターは、私にとって特別で、いつも心を攫われる。

もう、本当笑っちゃうくらいで、心が震えるほど、息を飲むほど、エモーショナルで、トキメキが止まらない。

UNDER MY SKINからのFADE TO BLACKの流れはもう痺れたし、バンドのグルーヴが最高潮に達していた。
プールサイドと、あと10秒での、この2曲で今ライブは気が狂った。
プールサイドを聴いてる時、詞と爆音が身体中に染み込んで苦しくなって、気付いたら水の中にいて、何処までも感情を失くして泳いでいく二人が見えた。あれは いつかの二人なのかな。

あと10秒で、この曲は高校を思い出してしまうなぁ。
寂しいから、じゃなくて
あなただから、電話がしたいと
心から思える人に出逢いたい
あの頃みたいに


素敵な夜をありがとう。











雨、土



新生活が始まって、もう直一ヶ月が過ぎようとしている。

無理に無理を重ねて、色々な人と繋がろうと試みたけれど、結局は部屋に帰った時の一人きりの居心地の良さには敵わないと気付いた。

体に良くなさそうな物をたらふく食べて、到底親密になり得ない人間と実のない話を何度も交す。帰り道、雨が降ってきて、グラウンドの土と、雨の匂いが混じって何故か懐かしい気持ちになった。

誰かが楽しいと言った、私には似合わない空間よりも、濡れるからと急いで帰ろうとしたけれど、雨と土の混ざり合ったこの匂いにもう少し包まれていたいと、自転車のペダルを漕ぐ速度を少しだけ落とした帰り道を、私は何度でも愛してしまうんだろうな。



 



新しい生活

 
一人暮らしを始めた。
 
まだ数日だけど、今の所ちゃんと自炊してる。
 
すぐに使わない食材は、早く冷凍しなきゃな。
あるもので、早く使わないといけないもので、献立考えるの楽しいな。美味しく出来て、上手く盛り付けが出来たらもっと嬉しいな。だけど、上手に出来たんだって言える人がいないと、寂しいな。
 
一人暮らしは、快適だけど、寂しさがいつもある。
 
お昼には、陽射しがよく入るこの部屋を好きになれそう。
 
夜は、浅はかで迷惑ばかりかける自分を嫌いになりそう。
 
選べたのに、間違えたんじゃないかって。自分が自分に問いただす。
選んで間違えたのなら、いいんじゃないだろうかって昔の自分が吠え出す。それに、間違ってないよって。
 
幸せになりたい。
幸せにしたい。
 
明日から新しいことが始まって、新しい人達に出会う。
 
晴れた日の午後には、自転車で遠いキャンパスまで走ってみようか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

last kiss

 
街外れにある、小さなフレンチのお店に連れて行ってくれた。ふたりはノンアルコールのスパークリングワインで乾杯した。
 
美味しいフレンチを食べたから
笑みが溢れたんじゃない。
 
切ないねって言葉にしないのは、わざとで、一生の別れを強要しないのは、私もズルイから。気持ちが溢れてこないのは、もうずっと、分かっていたから。
 
夢だと思ってたあなたは、夢なんかじゃなくて、だから私が自分で終わりにしないとダメだった。数え切れないほど交わしたキスもこれで最後。あなたは寂しいと何度も言ったけど、明後日には忘れるよ。撮らなければよかった写真と、美味しいフレンチの記憶を持って、私は旅に出る。貰ったボタン型の抹茶のチョコレートを1枚ずつ味わって食べながら、あなたのことを思い出すんだ。
 
 
涙が、終わりを告げた。